最前線


「川の向こうが、ビルマ(※1)だ。対岸に政府軍の施設が見えるだろ?」
(あ、見えますねぇ)

「気を付けて、連中は私服に着替えて、対岸のこちらに買い出しに来ることもある」
リーダーは珍しそうに望遠カメラで観察する僕に注意を促した。
「ま、連中スグワカルヨ。髪刈上げているから、ヘアスタイルを見ればすぐわかる」
マオさんは陽気に僕にいろいろ解説してくれる。



今回の旅をコーディネートしてくれたのはABSDF(※2)の皆さんである。
彼らは簡単に言うとレジスタンス。現ミャンマー軍事政権に抵抗する反政府武装組織である。



 僕は今、彼らとタイとビルマの国境のサルウィン川の畔の集落で休憩していた。『難民キャンプを支援に行くけど一緒に行くかい?』と誘われて、面白そうだから二つ返事でついてきてしまった。そして、いろいろ聞いてみると支援しているのはABSDF。難民キャンプは国連高等弁務官事務所が管轄しているが、細かい支援や、行き届いていない所はABSDFが支援している。チェンマイで落ち合い、彼らのアジト(秘密)で救援物資を四駆の車に乗せ換えてはるばるここまでやってきた。


 正直、反政府軍と行動するとは思っても見なかったが、ABSDFは過激派組織ではない。人権と民主化の為に戦っているアメリカ公認の政治組織とも言える。現在は停戦協定中である。ビルマのゲリラと行動する事は珍しい話ではなく、僕が敬愛する高野秀行(※3)先生も取材の為、やっていた。まさか高野先生と同じチェンマイからゲリラの案内で辺境に入るとは思っても見なかった。





注釈

※1 今回は難民に配慮してミャンマーではなくビルマの名称を使用しています。例外的に現在のミャンマー軍事政権の事をミャンマー政府と書いてます。
※2 ABSDF(全ビルマ学生民主戦線)武装組織 1988の大規模な民主化デモをした世代が政府の厳しい弾圧を受け地方のジャングルへ逃走。そして民主化を目指す反政府武装組として成立した。現在、アメリカの公認を受けて活動している組織で、普段外国では武装していない。元大学生のインテリが多かった為、逃げた先の山岳ジャングルで死ぬほど苦労したらしい。政府軍とまともに戦えるレベルではなかったそうだ。彼らにゲリラ戦を教えたのはKNU(カレン民族同盟
http://en.wikipedia.org/wiki/All_Burma_Students'_Democratic_Front
※3 高野秀行
誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをして、それを面白おかしく書く。 をモットーに執筆活動をつづける辺境作家
『アヘン王国潜入記』『西南シルクロードは密林に消える』で辺境の武装勢力と関係をつくりビルマの潜入紀行をノンフィクションで残している。
タイ国立チェンマイ大学日本語科で講師をしていた。


注:登場人物は偽名です。