若年失業、その本当の原因は? 

企業がぎりぎりまで雇用を守ろうとする前提にあったのは「主に男性の世帯主が1人で家族を養う従来の家族のあり方だった」と山田所長は言う。年功賃金の裏側には、年齢を重ねるにつれて膨らむ生計費を賄える報酬という思想があり、今なお残る扶養手当など属人的な給与もそれに当たる。

  年齢とともに家族が増え、子供の学費、住宅ローンなど必要経費が増えるのに賃金カーブも合わせる形である。ここ2年ほどはそれでも維持が難しくなり、リストラに踏み切り、実力主義賃金への転換を図り始めてきた。いよいよ従来型の仕組み維持が限界に来たというわけだ。

  しかし、従来の家族のあり方を前提にした雇用、賃金体系を維持しようとした結果、割を食ったのが若年層だった。総人件費の抑制で雇用を守ろうとしたため、新規採用が抑制されることになったのだ。

  工業化社会が成熟し、パイ(付加価値)の伸びが停滞する時期に起きる問題であり、欧米も同様の苦しみを味わった。米国は1980年代末までに終身雇用を捨て、実力主義賃金を徹底。同時に90年代にはITや人事、会計、財務などホワイトカラーの専門職的個人業者が登場した。

  欧州でも例えば、オランダは賃金や社会保険の負担・給付で正規労働者と同じ条件のパートを増やすなどの新しい取り組みを始め、北欧は女性の社会進出を進めた。

  狙いは米国の場合、主に企業の生産性を高めてパイを大きくすることであり、欧州の方は女性の働き手を増やし、夫婦で世帯収入を賄うようにして個人の賃金を抑えることにあった。山田所長も、「日本の賃金は家族を背負った“世帯主”賃金から、完全に個人の働きに見合う賃金に変わるのではないか」と見る。

▼若者たちの給与2極化も進む

  若年失業の底流に「家族のあり方」論があるとすれば、前提となってきた家族の形態は既に変わりつつある。企業の側も、パート、アウトソーシング(業務の外部委託)を含め、社内に様々な雇用形態を作るところが珍しくなくなった。女性の社会進出とパートでも高度な仕事ができるような政策的な支援も必要だろう。

  問題は若者の側にもある。冒頭の神田さんによれば、周囲で同時期に会社を辞めた若手の同僚数人の退職の弁で多かったのは「とりあえず、今の会社が嫌だから」だった。それで大丈夫か…。フリーターなどを続け、企業内で教育を受けたり、仕事の中で学んだりする機会が少なくなると、「スキルを磨けなくなって、そうでない若者との間で給与の2極化が激しくなる可能性がある」(山田所長)。

  若年失業問題、意外に根は深い。