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閉められるDOOR

「また、あと一度ぐらい会えるかな?」
その言葉を最後にして、背後の扉は静かに閉まった。次そのDoorを開けてもそこにはもうそこに空間は無い。この場所はもうすぐ閉じられる。

”ANTHERDoorは二度と開かない”

そう思うと涙が流れた。頭で考えた何かじゃなく、反射的に僕は涙を流した。永遠なんて無い。それは解っている。だけで、この感覚はなんだろう!悲しさなんだろうか!僕にも解りはしないナニカだった。





Another Doorが閉められることを聞いたのは昨日だった。ぼくは、震災一年が経とうとしている、もの悲しい雨空の中、代官山を歩いていた。地形が変わったわけではないが、コンビニ以外何一つ当時と同じ店なんて無いように思えた。

 なんとも言えない街だ。おしゃれな街と一言で片付けられない不思議な街。丘と谷が複雑に重なり、起伏に富んだこの街をかつて僕は走り回っていた。仕事でも私生活でも。なので、目的地に辿りつけなくことは無い。しかし、なんだか結局のところ、代官山・恵比寿という地域は、東京にきたばかりの当時の僕を受け入れくれた街だった。
そして、夕暮れに偶然見つけたANOTER Doorそれが空間研究の全ての始まりであった。

(久しぶり)
空間の雰囲気を壊さないようにしずかにマスターは喋った。
(ええ・・・そうですね)
僕は自分の時間を楽しんだ、ゆっくり時間をかけて作られたホットチョコレートが冷えた体にありがたかった。


 日も暮れてきて僕はマスターと話した。なにか、感性が強く人として、眼差しがとても強くて優しい人だった。日が暮れてからBRAに切り替わる。蝋燭の明かりが幻想的に空間を照らし始める

ぽつり、ぽつりとマスターと会話をはじめた。
なぜこの店を始めたのか?
どういう発想だったのか?
そしてなぜここを閉めるのか?
静かで確実なゆるぎない言葉。染み入るように価値のある言葉だった。

 20年仕事をして、自分をリセットしたくなったんだ・・・仕事をやめて次の計画があるわけではなかった。僕は器用なことができなくて、一度真っ白にしないと次のことができないんだ。
 しばらく自分の好きなものってなんだろう、常にノートを持って今日思ったこと、自分がいいと思うこと、いいなと思ったことを書いていった。そして、何度も見返した。そのなかで、いくつかの言葉が輝いて見えた。
 その言葉形にして、一つ煮詰めたのがこの店だ

この店も来月で10年です。そろそろ区切りがついていいかなと思ってね。閉めるんだ。
「次は何かやることは決まっているのですか?」
(しゃべってて自分自身で愚問であることを解っていた。そして答えは予想通りだった)
何も決まってないよ、旅に出たいなぁ・・10年東京を出てないからね。


この空間を目に焼付けておいた。いつか僕は僕の空間を創る。
空間研究は終わらない。