謎の独立国家

まぎれもない名著です。僕はあまり人に本を勧めない性質ですが、これは自信を持って勧めれます。

謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

先日やっと高野秀行さんの『謎の独立国家ソマリランド』を読了した。かなり分厚い本だが読むのが苦にならない本だった。それは、著者の難しい事を書かずに解りやすく書く力によるものだと思う。最近読んだ本で一番心に残った本なので感想を書きます。


まず、この本で心に残った言葉が以下である。これは深い、戦争が大嫌いになった日本はいいケンカの仕方を忘れているのかもしれない。

ソマリランドの人間は戦争が好きなんだよ」一瞬聞き違いだと思った。「南部の人たちがすきなんでしょう?」と聞き直した。「ちがう。戦争好きなのはソマリランドの人間。南部のやつらは戦争をしない。だから戦争のやめかたがわからないんだ」

ソマリランド:地上のラピュタと称される謎の未確認国家、とても平和
※南部:外国人が歩くには護衛が絶対必要なリアル北斗の拳の国家


まず、高野さんは前述に言ったように説明が上手い。書評では、”かの池上彰の説明力を上回る”というべた褒めの書評だが、僕も納得している。
http://honz.jp/22112


 まず冒頭から『ラピュタ行のビザをどこで得るか?』という記述から初まる。とても惹きこまれる表題である『そこに謎の国家がある』というノリは旅人(冒険者)がそそる言葉なのだ。冒険者は、空中都市、海中都市、謎の密林都市等々が三度の飯より好物なのだ。もちろん僕も大好物である。中学生1年生の時読んだあるライトノベル(名前は忘れたがソードワールドったような)の『精霊都市』を見つけるという話を鮮明に覚えている。今リアルにそれができるなら、本当に心からやりたいと願っている。




 初めは冒険から始まったが、作者の類い稀なる調査力から深層に切り込んでいく。しかし、アジア東南アジアの奥地で活躍した著者も、アフリカでは一筋縄で思い通りに進まない。アフリカ人にはタカり癖があり、何にでもお金を要求する。事あるごとに金銭を要求され、高野さんは手持ちのお金が減っていく恐怖に見舞われる。お金が無くなったらこの国では、生きていけない。それは、ライオン(現地人)中にいるカモネギ状態を示す。この恐怖と、孤独感から追い込まれてくる。しかし、そこからの、鬼気迫る盛返しがおこなわれるのだ。


 そして、氏族社会に深く入り込み、氏族というシステムの本質を解き明かすことに成功する。
 自分を表す符号はなにか?それが住所氏名のようにどの家(英語ではethnic group表記される)に属しているかで解り、悪さをすれば氏族間で知れ渡ってしまう。それが一種の宗教より確固たる秩序を維持するしくみになっている。
 ヘールという独自のシステムによって戦争の清算が上手いなど、日本人社会では考えられない事だが、社会のしくみとして活用できるアイデアが結構ある。これがこの本の単なる冒険小説ではない所以であり、変な経済書より生きた知が此処に記録されている。


 最後に作者はソマリランドを心から愛するようになり故郷のような存在になる。最初お金たかっていた人たちも、『友人からはお金はとれない』と最後にいった言葉は感動的だった。



 あまりこの本では大きくクローズアップされてなかったが、高野さんは謎の遺跡も見つけている。おそらく、あまり外国の探検隊や研究チームが入っていないので冒険資産はかなりありそうな気配を残して最後は終わる。次回の著作にも大いに期待できそうだ。