げんつきを買に行く

原付をとうとう諦めて買うことにした。そもそも2年ま前に組んだ一人暮らし計画のには原付を買うと決めていた。
しかし、私は自転車が好きだった。
そうして、2年が過ぎた。今日は坂を上がりながら、空を眺めた
夏空だった
決めた買おう・・・

メカニックはマシンに対して実直であればよい。

炎天下の中、熱心に店員はバイクを整備していた。つなぎは汚れていて、手はごつく仕事人の手で。首からタオルを常にかけていた。
狭いに店内にはあふれるほどバイクがあり、人が入れないぐらいだった。店外にもずらりとスクーターが並んでおり、通りの路面にずらりと整列させていた。多分閉店するとこの路面のバイクは全てしまわれるのだろう。しまうだけでもひと仕事だし、さらに在庫が溢れる店内にこれをしまうのは、ちょっとしたパズルゲームよりも難しい。

私店員の観察を済ませると、背後からその店員に声をかけた
「すいませんバイク見せてもらってもいいですか?」
店員は整備の手を止め、びっくりしたように、わたしを眺めた
「・・・あ?・・・はい」
無愛想この上ない店員だ。ニキビの跡がしっかり残るその店員の顔は、『ついこないだまでサッカー部でした』という趣の店員だった。
信用できる顔だ
私はバイク屋の店員に服屋の店員のような接客は求めていない。そもそも、微妙になれなれしく、細部まで観察して何かと営業策を出してくるバイク屋の店員なんて俺は絶対信用しねぇ
奥にはもう一人、年配のひょろっとした70年代のまま現在に至ったという感じの店員が忙しそうに電卓をたたいていた。いぶかしげに私を見ながら、客と認識すると態度が変わった。



店内に溢れかえっているバイクには、新車、中古車、様々だった。目的としたバイクはあった。私はHONDAのカブを買おうと決めていた。カブは世界で一番すぐれたバイクだ。ベトナムではカブを至高の乗り物として、2輪車の事を『ホンダ』という名詞にしてしまったぐらい、有名なバイクだ。ところが、目の前の新品の程度のいいカブを眺めるていると、購買欲がフッと消えてしまった。
 値段とかそういう問題じゃない。合理的すぎるのだ。そして心が全然動かないのだ。
カブがあればスーツケースを乗せて、神戸空港までも行ける。
でも、今現時点で、ほしいという欲がないのだ
(今回もやっぱり買わないってオチか・・・)
そう思って、他のとりあえずバイクを見る。色とりどりの新車が並べられている。HONDA、YAMAHA、SUZUKI
最近新車は安い、不況だからメーカーの努力がうかがえる。しかし・・・購買欲がなぁ・・
そういえば昔はHondaのDio乗ってたなぁ。標準的なバイクだったが不満はなかったね。「DioとかJogとかまだ売ってるかな?」
「あ・ありますよ」さっきの兄ちゃん店員が無愛想に答えた。気がつけば隣にいた
あまりにも客が来ているの無愛想にしている兄ちゃん店員を見かねてか「整備は後でいい」と指示し年配の店員が、私の接客につけたのだ。付けたのいいが、別に服屋の店員みたいに「最近、入荷したんですよぉ」なんて言ってこない。ただ無言で隣にいるだけだ。

*

 表の路面には、色とりどり新車が並べられてた。女の子が好みそうなクラシックスタイルのバイクがすらりとひな壇のように並んでいた。
昔と違ってカラフルで見栄えがいい。デザインも優れている。しかし、細部を見ると明らかにコストダウンの影が見えた。
諦めて帰るか・・・そう思った時、鮮やかなオレンジ色のスクーターと目があった。
ひな壇の奥の隅にバイクが小さく”ちょこん”と置いてあった。目立たない場所ではあったが、いい色のオレンジが鮮明に。
ひな壇の奥は中古のスクーターだった。
私は近くまで寄って、そのバイクを確認した。するとスクーターは私に話しかけた。
(ねぇ私を買わない?損はさせないわよ)
オレンジだけに陽気だ
「でもよ、あんた中古だろ?値段だってひな壇の新車より高いぜ」
(わかってないなぁ若けりゃいいってもんじゃないでしょ?)
「カウルの隅に少しひび入ってるし」
(そんなのお化粧すれば気にならないって。ひな壇の子はみんな4ストよ、低速ではろくに仕事できないわよ)
「でも燃費がいい」
(スクーターはみんなそうよ、ちょっとぐらい燃費がいいからって変わんないし、30キロしか出せない乗り物なのに、そんなややこしいのはいらないわよ)
「まぁ、そりゃそうだな」
(でしょ、あの子らはアンタ家の前の坂で悲鳴をあげるわよ、根性ないもの最近の子は)
「君はあるのかい?」
(4ストの中国産と一緒にしないでくれる?失礼ねぇアンタ)
・・・・
(買うの?買わないの?どっち)
「いいだろう」

確原型初期生産は90年代後半、現在は絶版。
明らかに今の新車とは異なる。昔と比べてクロムメッキが多く使われたパーツが多い、細部がいい仕上がりだ。まだ日本が景気がよかった時代の仕事だ。2005年に絶版したくせに走行距離がほとんど無い。断る理由はなかった。
「これ、ほしいんだけど」
そう言うと、隣の店員は”意外だ”と言わんばかりのリアクションをした。新車カブがほしい客がこれを買うというのは意外だろう。


私自身も意外だ

*

翌日、バイクの代金を払いに再び店に来た。
例の無愛想な兄ちゃん店員は、外で念入りにスクーターを磨いていた
昨日私が購入意思を決めたオレンジのヤツだ
しっかりと磨くと、中古でも新車に劣らずピカピカに輝く。
消耗品パーツは全て新型に換装され、昨日のくたびれた感はなくなっていた。
(どう?驚いた?)
確かに・・・けっこう見れたもんだな・・・
エンジンのアイドリング状態を細かくチェックしていた。
(走るのは久しぶりなの、来週までには何とかするわ)

スクーターはこれから、所定の手続きを行いナンバーを取得して渡される。
なんか、自分のマシンを受け取る時って興奮するね、
車でもバイクでも、自分専用機体ってのは男のロマンだね、女の子には解りませんよ


神戸自転車生活編は今週で終わり
来週からは「港町とスクーター」をお送りします。