精神論は、マネジメントとは呼べません

「営業は人と情熱である…。日本人はよくそう言いますが、ノルマを達成したかという結果論や、やる気を出せ、もっと頑張れといった精神論は、マネジメントとは呼べません」。
次のような逸話がある。

富士通の営業マンが、ライバル社のコンピューターを使っている会社の情報システム部長をオフィスに訪ねた。しかし、なかなか会ってくれない。無理もない。メーンフレームは一度あるメーカーに決めて導入したら、ずっとそのメーカーとつき合っていくのが当たり前。よほどのことがない限り、他のメーカーに切り替えることは考えられない。

  何度オフィスを訪ねても居留守を使われたり、多忙を理由に部長に会えない。そこで、富士通の営業マンが向かったのは、部長の自宅である。朝の出勤前に玄関前で待ち受けていたが、部長はけんもほろろ。「朝の忙しいときに来るな!」と怒鳴られた。

  営業マンは今度は夜、部長宅に向かう。インターホン越しに怒鳴りつけられた。何度行ってもインターホンにさえ出てくれない。そこで今度は、風呂場の窓から湯船に浸かる部長に声をかけた。「バカ野郎!帰れ!」。罵声とともにお湯が飛んできて、ずぶ濡れになった。

  その時、営業マンは「しめた」と思ったという。部長も人の子である。いくら怒っていても、営業マンをずぶ濡れにしたのには気が引けるはず。案の定、次の日、部長の方から営業マンに電話がかかってきた――。

  粘り強い営業の美談として語られている実話である。

  日本IBMの側にも、高柳肇氏(現ハイ・アベイラビリティ・システムズ社長)という伝説の営業マンがいた。「コンピューター営業は男のロマンである」「勝って涙を流し、負けて涙を流せ」「ビジネスは義理と人情の世界だ」という数々の語録は有名で、感動的でもある。

富士通は、業績低迷から脱却するために課長以上の社員の給与をこの1月から3月まで数%カットするが、「もっと頑張れ」「やる気が足らん」「とにかく結果を出せ」「さもないと給料が減るぞ」と言っているのに過ぎやしないか。どのようなプロセスで何に重点的に取り組めばいいのか、明確で具体的な経営戦略として社員に伝わっていれば頑張りようもあるのだが…。

今も、日本の営業現場はあまり変わっていないのだろう。いや、営業現場というよりも、経営者の考え方がなかなか変わらないのだ