ゲップする女のはなし

ある酒場での話し。

今日は平日であったが所用があって市内に出ていた。荷物が大きかったので帰宅ラッシュを避けるため、行きつけの酒場で時間を潰そうと考えた。

晩飯を兼ねて、その酒場に行くとカウンターに女性がいた。

店主と女性の二人だけのところに私が入店したわけだが、女性は私を顔を見るなり「久しぶり―、山でも行ってきた?」と意味の解らない事を私に言った。

 

まず、私はこの人を知らない

山にも行ってない。

多分リュックだから山に行ってきたと勘違いしたのだろう。

 

よく観るとかなり泥酔している。店主曰く「かなりできあがっている」とのことだ。しかしだ、確かに何処かの店で見たことある顔だ。面識はなくてもどこかで会っている。この界隈で呑む人種なら、全員知り合いみたいなものだ。

「隣に座んなよ!」

「じゃ・・・」

「どこ行ってきたの?」

「やた・・・」

向のやたか・・・”やた”とは最近流行りの日本酒飲み放題の店だ。飲み放題なのに質がいいのでたいへん危険な店だ。

平日に行ったら、次の日は仕事を休むことになる。

家まで帰る自信がなくなる。

そんな店だ、オシャレな内装なので日本酒女子が多い。この手の店に行く女子は酒豪なので、スケベ心で行く男は簡単に駆逐される。

「平日に”やた”とはとても酒つよいんだね」

と言ったが聞いてない。

泥酔女子の話はたいてい一方通行なのだ。そして、時折うめくように

 

 

「ぐえぇぇーーー」

 

 

とゲップをするのだ。その姿は小さな蛙を見ているようで面白かった。

 

よく見ると服装が名古屋人ではない。私は女子の服装を見れば名古屋女子かそうかは必ずあてられる。

そもそも、名古屋女子はアートや60sのファッションを取り入れたりできない。

そして、名古屋女子は独りで飲みに来ない

 

このゲップする女、泥酔しているがメイクは一切崩れず、服も片耳だけのイヤリングもつべがセンスがよかった。

 

こんなシーンを見ていると忘れていた東京を思い出してしまった。そしてゲップする女に関して僕は強い好感が持てた。

 

それは街で働いて、いろんな嫌な事があって疲れて、飲んで。たぶん翌朝何事もなかったように通勤するのだろう。

そんな都会の最前線で仕事している女性の背中には、渋い哀愁が感じられた。

 

中年サラリーマンのように何か人生のややこしいものを背寄っているのが感じられた。

 

「ぐえぇぇーーー」

 

あ、またゲップした

ちゃんとおうち帰れよ