どん底の姫君

”あんた名古屋でしょ?1時に静岡に着くから来て、近くでしょ?”

それは11時頃だった、そんなメールが僕の携帯に入った。
ヤツである。急に春一番の突風のように唐突にやってくる。
僕は少々ゴネタ。
名古屋と静岡はそれほど近くないこと、急に言われてもすぐには行けないこと、等々を返信した。
しかしよく考えれば、彼女は携帯を持っていないのだ。たぶんパソコンのe-mailでこれを送ったに違いない。
なぜ?二十歳そこそこの小娘から僕はこういう扱いを受けるのだ?


”貴方は旅人だからフットワークが軽いでしょ?”
読まれている。しかも、そのセリフ昨日聞いた。





で、ブツブツ言いながら僕は新幹線に乗ってしまうのだ。
なぜか、僕は逆らえない。30超えた大人が、ある小娘のよくわからない指示に従うのだ。20代の僕なら断っていただろう。しかし、いつも無茶を言って振り回される事が、ちょっと嬉しくなってきている。このむちゃくちゃ加減が懐かしく、とってもいとおしく感じている。


 お互い無茶やバカ言い合える人間は、気が付いたら彼女しかいなくなってしまった。みんな、旅立ってしまった。悲しい限りだ。




で、のこのこ静岡にやってきてしまった。
改札口で待ち合わせる。携帯を持たない人間を確保するのはめんどくさい。しかし、これが何故かいつも出会える。改札口付近をうろうろしていると後ろから声をかけられる。ああ、ヤツだ


ヤツはホテルにチェックインしたいというのでホテルに向った。僕はロビーで待つといったが、部屋に来いというので部屋に入る。まぁうら若き女性のホテルの部屋に入っても、何か、やらしい事をするわけではない。とりあえず、僕に見せたいものがあるらしい。

そして、ああ重い!とブツクサ言いながらノートPCを鞄から出してきた。
彼女はノートPCを立ち上げとあるデータの画面を僕に見せつけた。



ああこれはアレですな。
そこで、僕は呼びつけた真の理由を理解するのであった。


『着替えるまで、ちょっと読んでいて』