ぼんてん


誰もいない店内には、フランク・シナトラのDVDがかかっていた。一目見て解る、その噂どおりの偏屈な店主。
「まぁは入れや」
女の子には愛想がいい、餃子屋より、ジャズバーみたいにこだわりの強いバーに入った感じがした。寒く凍えた夕暮れにフランク・シナトラの笑顔がまぶしい。
「しってるかぁ?これ?」
フランク・シナトラですよね?
「こいつは、なんでもできるやつや、歌も俳優もだ!すげぇよねぁ」
店主は味わいがある人物だ。癖の塊で、えたいのしれない過去を匂わす男だ。
餃子とビールで
「キリンラガーとサッポロがあるよ?」
キリンラガーで
「キリンラガーを頼むかい?」
含みがある言い方だ
「キリンはこのキリンラガーで終わったんだ。それからはろくなビールを出していないなぁ。すまんが今はまだビンビールは冷えていないそれに今は夜だ★だろう?」
「★・・・・?」
何のことか解らなかった。不思議がっていると、連れがサッポロビールのビンを指差した。
ああ・・なるほどね、サッポロのビールには★マークがついていた
「やっとわかったかい?夜にキリンもアサもないやろ?」


 神戸の餃子はブルースでもありロックでもあった。そんな餃子は、皮がぱりぱり、中はモチモチとした味わい。肉の脂味をビールで喉に流し込むこの感覚が、癖になる味である。