あなたは日本人じゃない

家の近所でシャリーに出会う。
いくら近所に住んでいても、ばったり出会う事って難しい。しかし、出会うって事は多少なりと縁がある。

「やっぱり近所に住んでいたんだね」

お互いそういって改めて事実を確かめ合う。そうは前に言っても、そこに実際の経験が伴わなければ、実感が無いものだ。そして今お互い経験してやっと実感をもったわけだ。


「せっかくだからランチでもしない?」
「いいぜぇ、どこで?」

「ここ、バーバラの店よ」


家の近所にイタリアンカフェがあったのは知っていたが、観光客向きの店だと思って入った事は無かった。

店に入るとまたどっしりとしたイタリアン女将ってかんじのバーバラさんがいて、うるさい客に無愛想な注意をしていた。この辺りが日本っぽくなく、少々無理な客の要求に笑顔と敬語で返さない所がいかにも外国人っぽい。嫌な事は嫌だとはっきり言う人たちはある意味信用ができる。
「いっつもたちの悪いマフィアばっかりヨ、ホント・・シット・・・」
彼女は集団の近所で行われている結婚式に呼ばれたであろう、スーツの男連中に悪態をついていた。そんな日本男児のはっきりしない態度に愚痴を言う彼女に、シャリーは私を「日本人だけど彼日本人ジャナイ・・とてもいい感じの人」と紹介した。
外国人は人を紹介する事をとてもおろそかにしない。初めて会う双方にちゃんと紹介をする。日本人がそこで「あ、ども・・」なんて面食らって適当な対応をすると「ちゃんと自分の名前を言って挨拶しなきゃダメじゃないか」と言う。確かに彼らのいう事は正しく、これで友達の友達は友達としっかり認識されて、かなり益があることなのだ。なので、私も紹介してくれる人の顔を立ててしっかりと自分をアピールして理解してもらえるよう勤める。


で、彼女のおかげで近所のお店と顔がつながったわけだ。


そんな僕らに、バーバラさんは焼きたてのフォカッチャをサービスしてくれた。なかなかもんだ。

「ところでサ、シャリー日本人っぽくないってどういう事だい?」
「うーんなんとなく、日本人なんだけど・・なんかね・・・」


久しぶりに女の子と二人で食事したわけだし、彼女らのその感性的な話は結構、予言めいた本質をはらんでいるのでバカにはできない。後は終始彼女の新しく出来たボーイフレンドの話だった。ふつうのテンションの高い女の子っぽいように見えても彼女はボストンから来た人だ。そうボストンだ。腐っても高等教育を受けてきた私は、かの街の意味は充分理解している。そしてアカデミーと言う久しく聞いていない単語を聞くたびに、なんかとてつもない力を感じるのは単なる学歴コンプレックスだからだろうか?