最善か無か

メルセデスベンツ 彼らはコストパフォーマンス重視とは別の世界で生きていこうと考えているフシがある。

  ダイムラークライスラーダイムラー・ベンツだった頃、「最善か無か」というスローガンがあった。中途半端なものを作るくらいならやらない方がよい。良いものを作るためにはカネに糸目をつけない。それが圧倒的な品質につながっていた。

  1989年、トヨタが「セルシオ(米国名「レクサス」)」を発売した時、ダイムラー・ベンツは慌てたことだろう。「コストパフォーマンス重視」の世界観のまま質を上げていくと、同レベルのものを作れるということが分かったからだ。「最善か無か」でいくか「コストパフォーマンス重視」でいくか。ダイムラー・ベンツは決断を迫られた。

  その後、ダイムラー・ベンツは、セルシオをかなり研究して「コストパフォーマンス重視」の世界に参入した。事実、その後のメルセデスセルシオの影響を強く受けている。「トヨタ・コンプレックス」と呼ばれるほどだ。ところ
が、10年以上たって、この戦略が破綻してきた。「唯我独尊」だったメルセデスが、日本車やBMWジャガーと似てきてしまった。大市場である米国では、メルセデスは輸入高級車として唯一無二の存在ではなくなった。映画「ボウリング・フォー・コロンバイン」では、レクサスが字幕で「高級車」と訳されている(ホンダの米国における高級チャネル「アキュラ」も直後に出てくる)。今では高級車の代名詞はトヨタなのだ。